昭和51年の7月末、自分の将来について、やりたい事、やれたらいいなぁということを優先順位を付けて、全部で百個書き上げよというご住職からの宿題は、残念ながら未完成のままだった。が、その優先順位を付けるという過程で、様々な考えがドンドン浮かんできた。それを忘れないようにメモる。メモがどんどんたまってくる。メモがメモを生むかのようにあっという間に膨らんでいく。これは面白いなぁと思った。
でもそれが逆に困ったこととなる。これらのアイデア、これらのメモをひとつの体系として整理していこうとすると、一体全体どこから手をつけていいものか、ただの一歩も進まない。これをある程度まとめれば、自分の考えている「理想とする自分の将来像」がかなり見えてくるはずだ。でも悲しいかなまとまらない。まとめられない。
数日後、私は隣室の28才の修行僧にそれを相談した。「なるほど、いいことだよ。自分の頭で考えるということ、それは『模索すること』だ。大切なことだよね。生きていく、生き延びていく、自分の人生を全うしようと努力することだから。」とほめてくれた。そして1冊の本を貸してくれた。「知的生産の技術」という本だった。「梅棹忠夫という京都大学の先生が書いた本で、文化人類学の先駆者です。僕はこの本を読んでから梅棹先生の大ファンになり、京大の講義を『もぐり』で聴講したんだよ。いつもドキドキ、ワクワクした。講義内容はいつも面白かった。」同志社大学の学生だった頃の彼の武勇伝の一つである。
1969年刊行の岩波新書だった。大ベストセラーになったと聞く。模索の体験を通して、創造的な知的生産のための技術がたくさん紹介されていた。例えば「B6版カード」の活用方法や、浮かんだアイデアの発酵のさせ方やそれを最終的に1本の論文へとまとめていく方法など、「へぇ、なるほど!」と感心することばかりだった。目から鱗が落ちるというのはこのことだと思った。B6版カードは「京大(式)カード」という商品名で現在販売されている。
この「知的生産技術」を体験、体得したいので、早速書店に直行し、B6のカードを大量に買った。すぐ寺に戻り、たくさんのメモをカードにていねいに書き写していった。カード1枚にアイデア1つ。見出しもつけた。50音順に並べて保管し「発酵」を開始させた。
(続く)